こんな本屋さんなら、つい行ってしまう・その4:新刊書と古書が買える店

新刊書店で古書を販売することは、諸々の事情により、そう簡単ではないことは現場の人間でなくてもわかるのだが、単純に読者としては、新刊書と古書が併売されているというのは魅力だ。


理想を言えば、昨年の東京国際ブックフェアで社長が講演した、アメリカの世界最大の書店チェーン「パウエルズブックス」のように、新刊も古書も一緒に売られていれば、買うほうの選択肢も広がるし、ついでに新刊、古書どちらも買う可能性も出てくると思うのだが、日本の場合、取引条件や管理面での問題で、実現はなかなか難しいだろう。


実際に見たことはないが、このパウエルズブックスを参考にしたという広島の「フタバ図書」のように、フロアと売り場を分けて展開したり、今回の紀伊国屋書店新宿本店のようにブックフェアでスポット的に併売したり、古書店と連動して、常設の古本コーナーを設置するとか、方法はあると思う(東京堂書店のふくろう店にはふるほん文庫やさんコーナーがあった)。


なんだかんだ言っても、読者にとっては「ブックオフ」という存在はありがたいのは事実だ。だからと言って、すべてブックオフで買うかと言えば、この本はやっぱり新刊書店で買いたいとか、ブックオフで買い始めたコミックを、途中からは新刊で揃えるとか、けっこう使い分けている人は多いだろう。


また、一度読めば保存しておく必要がない本を、ある程度の価格で買い取ってもらえれば、そのお金でまた本が買える。


本屋さんにとっては、新刊で売った本を、読み終わったら買い取って、また違う新刊を買ってもらう。
また、たとえば買い取った本を古書で買った人が、同じ著者の本を今度は新刊で買うといった、試し読みやサンプルの役目をすることになることもあり、長い眼で見れば、マイナス面ばかりではないと思うのだが。

(ここで言う古書というのは、絶版本や古書的な希少価値がある本ももちろんあったほうがいいが、発売から6ヶ月〜2年ぐらいで増刷されなかったために、もう少し店頭にあれば売れるのに、書店の店頭からは消えてしまったようなもったいない本、いわゆる新古書=ブックオフなどで一番売られたり、買われたりしている本をイメージしている)


著者や出版社が新刊が売れなくなるからと言うのもわかるし、取次が古書を新刊の返品にまぎれさせて返品されると困るというのもわかる。


どうも、出版業界内での論議というのは、それぞれの権利や利益をどう守るかどうかがベースになっており、読者にとっては何が一番利益になるのか、どうしたら読者に喜んで1冊でも多く買ってもらえるかという、商売としての大前提のようなものが欠けているような気がするのだが。


このほかにもほかの業界では常識で、当たり前のことが、出版業界では、出版は文化であり、ほかの商品や消費財とは違うということで、通らなかったり、変えることができないことが多すぎる気がする。


だから、単純にほしいと思う読者に確実に本を届けようと思えば、取次を通さず書店直販ルートを自社で開拓するとか、ネット書店や通信販売のみで販売することを選ぶしかないということになる。実際にあえて取次・書店ルート以外の販売を選択して、成功している例も多いと聞く。


ほかの業界でビジネスを展開している人ほど、再販と委託制度に守られている出版業界の慣習とかルールには、単純に考えて、おかしいなと思うことが多いと思う。


私がここで言うまでもないことだが、読者にとっては、お金を払って買うということは、文化的に価値があるかどうかというのは関係ないことで、自分にとってそのお金を払う価値があるかどうかしかなく、本もほかの商品もそれは変わらない。


シンプルに「読者に喜んでもらうためにはどうすればいいのか」と考え、そのための方策がシンプルに実現できるようになれば、本屋さんにも読者はもっと戻ってくると思うし、もっと増えると思うのだが。


部外者の理想論かもしれないが、出版社、取次、書店のそれぞれの利害や垣根を超えて、誰かがリーダーシップを取って変えていかなければ、このままではいつか、読みたい本が自由に読めなくなるという時代がやってくるかもしれないと思うのは、考えすぎだろうか。


話は変わるが、本や雑誌もパッケージソフトの1つとして、マルチメディアのパッケージストア(呼称は合っているかわからないが)を目指しているTSUTAYA、あるいはブックオフの考え方や戦略は、ビジネスとしてはとてもシンプルで、他業界から見れば、そんなに特別な考え方や戦略ではないと思う。


その展開の速さと実績により、出版界の常識を1つずつ変えられる力は持ってきているし、取次や出版社がその力を借りなければ、やっていけなくなってきているといっても言い過ぎではないと思う。


本のこと、出版のことは他業界とは違うからとあきらめるのではなくて、出版界の常識にはとらわれずに、いいところはどんどんマネして、他業界と同じようなシンプルな考え方ややり方でがんばれば、生き残っていけるようになればいいと願うばかりだ。


ちょっと横道にそれるが、素朴な疑問を最後に。
ブックオフのカードはTSUTAYAのTポイントカードに統合され、新刊書店とDVD・CDレンタルが併設されている店舗はけっこうあるが、同一敷地内に新刊書店とブックオフがあるパターンというのは、もうすでにあるのでしょうか。


実情はよくわからないのだが、取次の日販とTSUTAYAとCCCの関係から言っても、管理の問題や業界的なコンセンサスがクリアできれば、近い将来、TSUTAYAの店の多くが、ブックオフと新刊書店が併設されている店舗に、オセロのようにすべて変わってしまうということもあり得るんですかね。