こんな本屋さんなら、遠くでもわざわざ行ってしまう5:偏りのある本屋さん


「偏りのある本屋さん」というのは、どんなジャンルもまんべんなく、ある程度のレベルで品揃えしているという、大手書店のミニチュア版的な本屋さんとは違う、見方によっては「バランスの悪い本屋さん」というイメージだ。

 
言い換えると、まったく充実してないジャンルがいくつもあったとしても、その規模の本屋さんにしては、いやに充実しているなと思わせるジャンルがあったり、一人の作家だけは異常に品揃えがいいとか、品揃えとしてはいびつというかバランスが悪いのだけれど、その偏りに何か、お客さんにまた来てみようと思わせる魅力のある本屋さんだ。


その本屋さんの立地や客層にもよるので、お店全体を専門化したり、何かのジャンルに特化するのは難しいことだと思うし、そこまでする必要はないと思う。


たとえば、コミックの品揃えだけは同規模の書店には絶対負けないとか、そのコミックでもこのジャンルだけはとか、この作家の作品だけはとか、全部ではなくて一部でいいというか、突出しているのは一部のほうがいいかもしれない。


そして、より売れるものを揃えるというよりも、その店の店長や担当者がこだわりたいジャンルや思い入れのある作家や作品であれば、もっといいと思う。


最近はどこのお店でも、売れ筋の本やプッシュしたい本は平台で、POPをつけて売っているが、出版社が同じものを配ったり、チェーン店の本部がつくって配ったりするようになり、手書きのPOP本来のよさが失われてきている。


これも、やらないよりはやったほうがいいとは思うが、売れ筋の品揃えでは、大手書店にはどうしてもかなわない。


それよりは、あるジャンルの棚の1段、2段のスペースでも、「えっ、なんでこんな本まで置いてあるの」とか、「いやに、この作家だけ作品が多くない?」とか、意外な発見があるような棚があると、また来てみようという気になる。


本屋さんによく行く、本屋さんに行くのが好きだというお客さんは、その本屋さんが使える本屋さんか、使えない本屋さんかをちゃんと見ている。


そういうお客さんは、サービスが悪かろうが、応対が悪かろうが、この本屋さんは使えると思えば通いつめる。


だからと言って、最高の品揃えを求めているわけではなくて、その思い入れの強さや、見えない努力を評価しようという気持ちはある(ネットの世界でも、データや数字にシビアでクールに評価するだけかと思いがちだが、大小関係なく、個人でも会社でも、評価できるものは評価しようという気持ちが根底にあると感じる)。


だから、「このジャンルに関してはほかには負けない」とか、「この作家の素晴らしさを伝えたい」、といったこだわりや思い入れというものは、棚を見ればわかるし、伝わる人には、必ず伝わると思う。


「偏りのある本屋さん」、「ちょっとバランスの悪い本屋さん」であれば、それを見に遠くでも、わざわざ行ってみようと思う。


さらに、どんな本を揃え、どう並べるかによって、「お客さんに語りかけてくるような棚」をつくることも可能だろうし、棚を通して何らかのメッセージを投げかけることもできるだろう。


こんなことを考えていたら、10月5日の朝日新聞朝刊に、ジュンク堂書店新宿店で開催されている「平和の棚の会」ブックフェアの記事が出ていた。


平和の書棚 発信
http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000000810060002


今回のフェアは「平和」をキーワードに選んだ本を常設する「平和の棚」に触発された出版社20社が集まり、約600冊を並べるブックフェアを行うことになり、今後はトークショーを開催したり、全国の書店に働きかけていくという。


これは一つの棚が「平和」という大きなメッセージを発信し、大きなムーブメントとなった例だが、もっとくだけた、日常的な発見や面白がりでもいいので、本屋さんには、どんどんメッセージを発信してほしいと思う。


本屋さんには棚を通してメッセージを発信する力があるし、そういったメッセージをちゃんとキャッチして、伝えていく輪というものが、ネットの世界にはあるのではないか。それをいい意味で、利用しないテはないと思うのだが。