こんな本屋さんなら、つい行ってしまう7:お客さんの声を活かしている本屋さん


前回の「こんな本屋さんなら〜6」のエントリで、「書店員の目」で店内のいたるところで、ブックガイドしてくれるような本屋さんなら、用がなくても通ってしまうだろうと書いた。


本を扱うプロとしての「書店員の目」を活かしてブックガイドしてくれると同時に、一読者としての「お客さんの目」や「お客さんの声」もすくいとって活用したり、直接読者の声を伝えてもらえると、もっといいと思う。




本を選び、本を買うために参考にする情報や判断基準というのは、人それぞれだと思うが、いつからか本を読むプロである書評家やその道の専門家である人の意見よりも、自分の周りの友人や先輩、ブロガーやアマゾンのカスタマーレビューなどの、本読みのプロではない、どちらかというと読者に近い、フツーの人の意見を参考基準にする人の割合が増えてきた。


特に、小説やエッセイ、コミックなどの、エンタテイメント系の本は、読者として読んで面白かった人の声が一番の基準になったりする。その意味では、アマゾンのランキングや本屋さんごとのランキングというのは、いいか悪いかは別にして、読者の目や声を反映しているが、順位が高ければいいという訳ではない。


本屋さんがお客さんの意見をどう情報として見せ、どう棚づくりに生かせばいいのかと考えていたら、まさに読者の意見をもとにした「まちの本屋さんに聞いた 俺の一冊、私の一冊」というブックフェアが開催されていた。


このブックフェアは、このブログでも何回か紹介させていただいた、東京・千駄木往来堂書店と、本屋プロレスで一躍有名になった、東京・中井の伊野尾書店のほか、書店グループ「NET21」に加盟している43書店の店頭で毎年開催しているオリジナル文庫フェアで、今回が3回目、12月中旬まで開催している。


前2回は書店員がおすすめするというやり方だったが、今回は実際にお客さんからオススメ本を推薦してもらい、それを10代〜60代までの年代別に分け、40冊をピックアップ。それぞれの推薦文も掲載した小冊子を作製し、無料で配布しているが、それぞれの年代で、どんな文庫が、どんな言葉で推薦されているのかを見るだけでも面白い。


「まちの本屋さんに聞いた 俺の一冊、私の一冊」の詳細は、伊野尾書店のブログで読める。


このブックフェアの開催書店はこの小冊子に掲載されているが、WEBでは、NET21のホームページを見るしかないのかな。


また、東京堂書店神田本店でやっている「読書マラソン」もやり方は違うが、お客さんが自分が読んだ本をすすめ、その推薦文を店内で掲示したり、HPで読めるようにしている。店内には作家が書いたカードもあり、読み出すとけっこう面白いと思った。


一般人の声というと、月刊誌「東京グラフティ」(発行:グラフティマガジンズ・発売:KKロングセラーズ)の49号(9月25日発売)の特集が、240人が選ぶ400作品!!「人生最高の本! 映画! 音楽!」というものだった。


この特集では、一般ピープルが実名で顔出しして、人生最高の本と映画と音楽をあげているのだが、これが面白い。240人の顔ぶれは、作家や国会議員、クリエイターやヴィレッジ・ヴァンガードの店員や古書店員、ホストや美容師、東大生から女子高生、渋谷のギャルや巣鴨のご年輩者までという、多彩な顔ぶれで飽きない。作家の本棚を見るというのも興味深いが、読書好きな一般人の本棚の写真も掲載されていて、違った意味で面白い。


この「東京グラフティ」は、広告クライアント向けの媒体資料によると、


毎号1000人の「普通の人」が登場。東京の「今」を切り取るトーキョー新世代マガジン。
匿名参加のネット社会に異を唱える、実名で写真入りの、一般人大量参加の雑誌。
タレントやモデルではなく、あくまで普通の人たちを掲載。
恋愛から政治まで、等身大の若者の生の声が詰まった雑誌。


と謳われており、 発行部数は公称12万部。


見た目や形態は雑誌だが、書籍扱いでヴィレッジヴァンガードのほか、バックナンバーを置いている書店も多い。


ファッションでも、インテリアでも、恋愛特集でもすべて、有名人ではない、読モとはちょっと違う一般人を実名、写真入で登場させるというコンセプトも面白いが、10万部前後の部数で書籍扱い、主要読者である若者が多い書店には、バックナンバーを常備するという方式は、雑誌の発行形態や展開としては注目していきたい。


ちなみに、購入する本を選ぶときに参考にする情報として考えられるものには、

(新聞・雑誌)

  • 新聞の書評欄
  • 新聞の出版広告
  • 雑誌の書評・読書ページ
  • 本の雑誌
  • ダ・ヴィンチ
  • 雑誌の読書特集で紹介された本

(テレビ)

  • 王様のブランチ・BOOKコーナー
  • テレビ番組で紹介された本

(ネット)

  • 新聞や情報ポータルサイトの書評コーナー
  • カリスマブロガー、アルファブロガーがすすめる本
  • 愛読しているブログで紹介された本
  • 一般の書評ブログで紹介された本
  • アマゾンやbk1のランキングとカスタマーレビュー
  • みんなの書店のひいきのお店

(その他)

  • 友人や同僚・上司などにすすめられた本
  • 直接、本屋さんで見つけた本

のようなものが、考えられる。

以前は本といえば、新聞書評や新聞広告の影響力が大きかったようだが、最近ではその反響もだいぶ小さくなってきたと聞く。実際、私が読むような本は、あまり取り上げられることがないし、取り上げられたとしても発売後だいぶ経ってからなので、正直言ってざっとは見るが、興味のあるテーマ特集のようなもの以外は、あまり参考にはしていないのが正直なところだ。


ダ・カーポ」が休刊して、本の情報が多い雑誌は「本の雑誌」と「ダ・ヴィンチ」だけになってしまったが、この2冊はそれぞれ特徴があって、本好きにとってはありがたい存在だ。


王様のブランチの影響力が大きいのは改めて言うまでもないが、ここでも編集のプロである筑摩書房のベテラン編集者・松田さんの親切丁寧な解説より、読者と同じ立場である優香の「面白かった」「感動した」「泣けた」の一言のほうが、反響ははるかに大きいようだ。


参考度合いの伸び率から言ったら、圧倒的にネットからの情報だが、そこで得た情報を元に、すべてネット書店で買っているわけではないだろうから、ネットの情報とリアル書店を上手にリンクすることができれば、もっと本屋さんを訪れる回数も増えるだろう(勝間和代さんや直販の出版社ディスカヴァーなどが展開している、ネットを活用したマーケティング、販売戦略については、既存の出版業界にはない発想と行動力があると思うので、改めて触れてみたい)。


本日現在、書評専門のブログサイト「本・書評ブログ村」の参加者が4328人、みんなの書店の書店数は3万4544店もある。マメに更新したり、参考にできるコメントはこの何割かだとしても、単純に万単位の人が、本に対するコメントや意見を発表しているわけで、これを活用しないテはないと思うのだが。


本屋さんの店頭で、このような一般人の声を伝えたり活かしていくというのは、そう簡単なことではないと思うが、何らかの方法でそれができれば、もっとリピーターになるお客さんも増えるだろうし、もっとリアル書店で買ってみようかというお客さんも増えるのではないだろうか。


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