書店のベストセラーランキング考その3

前回、書店によってベストセラーランキングが違ってくるのが面白いと書いたが、そうならざるを得ない書店の売れ筋ランキング事情というのもある。


売れる本ほど、もともとの配本数が少なかったり、品切れとなって追加注文した部数がすぐ入る保証がまったくない。ベストセラーランキングといっても、もともとハンデ付きというか条件付きの売れ行き冊数の上位ランキングという、中途半端で微妙なランキングだというのが実情だ。


商売であれば当然、売れ筋商品をいち早く発注し、それを恒常的に確保したいと思うのが当たり前のことだが、書店の場合、書店の規模や実績、取次会社との力関係、返品を恐れる出版社の増刷のタイミングなど、諸々の事情から、書店が努力しても、売れ筋商品の品揃えには限界があるらしい。


だから、いわゆる売れ筋のベストセラー商品以外の、その店独自のロングセラー商品を開拓したり、その部数を確保していくことで対抗していくしかないのだが、その努力を来店客に伝え、それを売上げに結びつけていくというのは、部外者から見ても、相当大変なことだと思う。


書店の事情を知れば知るほど、軽々しくがんばってほしいとは言えなくなってくるが、そう言いながらも、しょうこりもなくランキングは紹介していく(今回は1週遅れだが)。


東京・千駄木往来堂書店の7月7日〜13日のベスト10が、店長日誌にアップされているが、現在発売中の「週刊現代」8月2日号でも「カリスマ書店員さんのとっておきのオススメ本」というコーナーでも紹介されている。


児童書が2冊入っているのが、街の本屋さんの理想型・往来堂書店らしい。


今回、オススメ本として笈入建志店長がすすめているのは、前週のランキングに入っていた『磯崎新の「都庁」』(平松剛著・文藝春秋)のほか、「新宿駅最後の小さなお店ベルグ」(井野朋也著・ブルースインターアクション)、『居酒屋ほろ酔い考現学』(橋本健二著・毎日新聞社)の3冊。3冊とも読んでみたい。


また、5月にリニューアルしたばかりの神田神保町東京堂書店のベストセラーランキングで、2週連続で「新・文學入門」が1位を獲得している。


「新・文學入門」は人気古本ライター「均一小僧」岡崎武志さんと関西古本業界の雄「古本ソムリエ」山本善行さんの痛快な文学談義で構成された、本好き、古本屋さん好きにはたまらない1冊だ。


全編に、埋もれた名作を古本めぐりで発見する楽しみがあふれ、最後は二人の独断と偏見に満ちた架空の日本文学全集企画までつくってしまう。


内容だけでなく、装丁から本文の組み方まで、様々な工夫や仕掛けがほどこされていて、著者と編集者が、読者を「あっ」と言わせたり、「ここまでやるか」と思わせたいという気持ちが伝わってくる。


つくり手がいい意味でとことん遊んだり、楽しんでつくっている本には、買いたいと思わせるオーラが自然に出てくるのかもしれない。


また、著者の岡崎武志さんと山本善行さんのブログで、精力的に書店店頭を回って、トークショーやサイン会をやっていらっしゃる様子を拝見していると、著者が自らの著書を書店を行脚しながら手売りしていくという、大げさかもしれないが、出版の原点を見ているような気がした(編集・制作の段階からの報告も含めて)。


また、物理的に行きたくても行くことができない、遠方の書店店頭でのトークショーの盛り上がりや熱気をネットで同時体験できるというのは、すごいことだと思う(書肆紅屋さんの的確な実況中継の力も大きかったと思うが)。


新聞広告などに比べると、少人数を前にしたライブというのは、販促活動としては一見原始的に見えるが、ネットでつながった、本好き、古本屋さん好きの輪に投げかけたインパクトは、マス広告にも勝るとも劣らないものだと思う。


今までは、書店での著者のサイン会というのは、店頭でのポスターやチラシで知ったり、その書店のファンしか見ることのないホームページで知るぐらいで、こんなに広く告知されたり、その様子を知ることはできなかったと思う。


今回の「新・文學入門」を読者に届ける旅というのは、その本を読みたいと思っている読者に確実に、その本を届ける一つの方法を見せてくれたのではないか。


今週はもう一つ、東京・吉祥寺の人気店・BOOKSルーエのランキングも。ホームページを見ていただくとわかるが、自店のランキングを毎週、ジャンル別に細かく(ジャンルによっては50位まで)アップしており、おまけに過去のランキングも簡単に見ることができる。けっこうベスト10よりも、10位以降に入っている本のラインナップを見るのが面白いので、ランキングマニアとしてはたまらない。


千駄木往来堂書店(7日〜14日)


神保町・東京堂書店(15日調べ)


吉祥寺・BOOKSルーエ(8日〜14日)