こんな本屋さんなら、用がなくてもつい行ってしまう・その1

本や雑誌という商品は、改めて言うまでもなく、どこで買っても価格は変わらないし、たくさん買うと大きな特典をもらえるということもないし、サービスがすごくいい本屋さんというのもないのがフツーだ。


早く読みたい本ほど、見つけた本屋さんで買ってしまう。
雑誌も急いでいれば、キオスクや駅前の本屋さんで買ってしまう。


これは、本が再販の対象商品である限り変わらないので、本屋さんて、努力が確実に実を結ぶとは限らないというか、徒労に終わる場合が多いというか、ある意味厳しい商売だなあと思う(長い眼で見れば、ムダなことはないとは思うが)。


本が好きだとか、好きな本をすすめたいとか、といった気持ちがないとやれない商売ではないか(どんな商売でもそうだとは思うが、利益率だけを考えたら、書店専業というのは厳しくなるばかりだと思う)。


でも、単行本を買うなら、この本屋さんで買おうとか、この雑誌は毎号この書店で買おうと、思っているお客さんというのもいるし、そう思わせるような本屋さんというのもある。


たとえば、店長さんの人柄が好きだとか、店員さんの応対がいいとか、自分の好きなジャンルが充実しているとか、行くと必ず何か発見があるとか、本につけてくれるカバーが好きだとか、出版社が出しているフリーマガジンがたくさん置いてあるとか、理由はなんでもいいと思う。


その店につい行ってしまう、その店ならではの理由というのをつくって、それをもっとアピールすることができるのではないだろうか。


どこで買っても同じとは言っても、何回かに1回はその店で買おう、用がなくてもわざわざ行ってみよう、ちょっと遠いけど行ってみよう、と思わせることは可能だ。


もちろん、その店ができる限りの品揃えをする、それにお客さんが応えるというのが、本屋さんの営業努力としては、理想だと思うが、違う次元で、商店として情の部分に訴えるというか、「ひいき」にされるというのも悪いことではないと思う。


その本屋さんの立地や客層、オーナーの考え方など、によってその方法は色々とあるだろうが、このブログを始めてから私がざっくりと考えたのは……次の4点。


専門家の方や他業界から見れば、当たり前のこと、どこでもやっていることかもしれないが、行きたくなる本屋さんがもっと増えることを願って、少しでもヒントになればと思いまとめてみた。本屋さんの実際の現場を知っているわけではないので、的外れだったり、机上の理想論かもしれず、笑ったり、不快になる方もいるかもしれないが、ご勘弁ください。


1.インターネットの効果的な活用 


すでにHPやブログなどでネットを活用しているところは多いが、本屋さんというのは、発信できる価値のある情報がたくさんある割には、戦略的にビジネスに結びつけているところは、まだ少ないような気がする。
たとえば、書評ブロガーとの連携や、書店員ブロガーによる集客は、ネット書店だけでなく、リアル書店でももっとやれるのではないか。優秀な書店員ブロガーの運営するブログがビジネスに直結していないのは、すごくもったいないと思うのだが(それぞれ職場での立場などの事情があったり、あえて匿名にしておきたいという自身のスタンスもあると思うが)。
また、ネットを活用することで、今までだったらコスト的にも、人員的にもあきらめていたことが、コストをかけずにできるようになったというのは大きいと思う。


2.地域の書店&異業種ネットワークの構築


たとえば鉄道や地下鉄の沿線とか、同じ市や区であったり、1日で移動可能な地域にある本屋さんだけでなく、古書店や雑貨店、インテリアショップ、カフェなどが連携するネットワークをつくって、イベントの開催やポイントカードなどの顧客サービスを実施する。
ちょっと遠いところでは、1店しか目当ての本屋さんがなければ、行く回数も限られてくるが、その地域に見て回れるお店が点在していれば、訪れる回数も増えるだろう。
本屋さん同士では、それぞれ得意なジャンルを充実させることで、配本されない本や品切れたものを、お互いに融通しあったり、「ウチにはないけど、隣駅のあのお店にはある」とお客さんに案内できるのではないか。
すべては難しいかもしれないが、売れ筋だけでも在庫情報を共有することはできるかもしれない(神田神保町など、一部では始まっているらしい)。
また、書店ネットワーク総計の実績により、取次会社や出版社に対する条件交渉や配本の確保を有利にすすめている例もあり、これはこれで意味のあることだと思うが、お客さんに対するサービス向上のために、狭い地域でのネットワークをつくるというのも、並行してやってもいいのではないか。
イメージとしては、このブログでも紹介させていただいている早稲田・目白・雑司が谷地区の「わめぞ」や、一箱古本市を成功させている「不忍ブックストリート」などが、地域限定でのネットワークづくりの1つのお手本になる例だと思う。

  
3.本屋さんでもやれる顧客の定着化


他業界ではフツーにやっている顧客のデータベース化というのも、プライバシーに関わるデータということで、あえてやってこなかった部分やコスト面でやれないという点もあると思うが、ネット書店では自然に購買記録が蓄積されており、希望者だけの会員制にするなど、運用方法さえ注意すれば、範囲を限定してのメルマガやブログでの情報提供などは可能だと思う(従来の古書店では、日々の商売の中で、自然に顧客の定着化を図っているとは思うが)。
誰がやるのか、そんな人手やコストはないというかもしれないが、昔は雑誌の定期購読の配達をしながら、家族構成を把握し、百科事典や企画商品などをセールスするなどして、自然に周辺地域の顧客管理をしてきたわけで、それをネットを活用することで、今の時代の「御用聞き」的な積極的なサービスができるのではないだろうか。
TSUTAYAのTカードまではシステム的に無理であっても、スタンプカードのようなポイントカードはやってみる価値はあるのではないか。
この場合、お金でのバックでなくても、特製のブックカバーとかしおりとか、ノベルティグッズでもいいと思う。お客さんとのコミュニケーションが取れたり、どんなお客さんが多いのかという顧客を把握するだけでも意味はあると思う。
もともと利益率が低いので、難しいとは思うが、金額だけの問題ではないと思う。なんか得した気持ちがするとか、自分はこのお店のファンだということを確認できるとか、違った形の満足も提供できる。


4.来店のきっかけづくり・イベントがある本屋さん


目当ての本がなくても、足を運ばせる、用がなくても行ってみようか、ちょっと遠いけど行ってみようと、思わせる来店のためのきっかけづくりや仕掛けができると思う。
すでにブックフェアとか、著者のサイン会やトークショーなどはやっているお店も多いが、これはネット環境が急速に整ってきていることで、以前なら店内での告知やチラシ、新聞や雑誌の情報欄での告知などしか方法がなく、告知の範囲も限られていたが、話題性のある内容であれば、ブロガーのネットワークを通じて、地域を超えた集客が可能になっている。
せっかく面白いブックフェアをやっているのにもったいないと思うことが多いが、ネットでもっとアピールすれば話題になる速度や範囲というのは、送り手の想像を超え広がる可能性が出てきている。
たとえ、そのときは来店しなくても、告知を眼にすることによって、今までは一書店ではできなかったような宣伝にもつながる。


1〜4と便宜上分けたが、すべて密接に関連している。ただ、先にも書いたように、ネットを活用することで、今までにはあきらめていたこと、できるわけはないと思っていたことができるようになっていることは間違いない。


今回は勢いで書いた走り書きなので、言い足りない部分や説明不足も多いので、日を改めて、1項目ずつ詳しく書いていこうと思っている。


この本屋さんに行くとなんか落ち着く、ほかの本屋さんとはなんか違う、店長さんや店員さんの一生懸命さに「ほだされる」など、思い入れのきっかけは色々とあっていいと思うが、また行きたくなる本屋さん、ひいきにしたくなる本屋さんというのが、逆にこれからの時代にはつくることができるのではないだろうか。


もちろん、大手書店でもこのようなことをすでに実際にやっているところもあるが、中・小書店のほうが、オーナーやスタッフのキャラクターが身近に感じられたり、よりシンパシーを感じて応援しようという気にもなる。


本や雑誌の総体的な売上げは確かに落ちていくばかりだと思うが、面白い本を、気に入った本屋さんで買いたいと思っている人は、まだまだいると思うし、そんな本屋さんを探している人も多いはずだ。


そんな本屋さん大好きの一読者からのラブレター「勝手に本屋さんの再生・店頭活性化プロジェクト」は、まだまだ続けていきます。